マサオのブログ

よもやま話ですが、何かのお役に立てれば幸いです。

演じているのに、演じていない

今、金曜ロードショーで、3週連続でジブリ作品を放送しており、その中で先日久しぶりに「トトロ」を見ました。

ジブリ作品はどれも名作ぞろいですが、このトトロは特に人気があり、私も大好きです。

日本人なら誰でも共感出来る要素が随所に盛り込まれており、どこか郷愁を誘います。

私は大阪市内で育ったので、田んぼのある風景は、故郷とはまったく関係ないのですが、これはいつも不思議です。

私よりもずっと年下のひとも同じようなことを言っていたので、その国の気候風土は、人々の気質を作るといいますが、作品の風景は日本人のDNAに盛り込まれているのかもしれません。

ましてや、リアルにあの環境で育った人や、設定時期の昭和30年代を知っている人にとっては、もっとたまらない感覚があるでしょう。

公開当時は、まだ、アニメ=ファンタジーでしたので、ここまでリアルに日本の田舎を再現した作品はありませんでしたし、敵味方のドンパチも無いのに、そもそもお話が成立するとは思えませんでした。

最初に見たときは、衝撃を受けましたし、宮崎駿氏は天才だと思いました。

一番最初に兄とレンタルビデオで見た時(89年頃)に、兄が「宮崎駿が本当にやりたかったことは、これなんやろうな」といっていたのが印象に残っています。

その後も何回も見てきましたが、毎回新しい発見があります。

今回の発見は、お父さんの「声」です。

糸井重里さんが演じておられますが、これまでは、他の演者と違い声優は素人なので、物凄く違和感があり正直好きではありませんでした。

ところが、今回は全然違和感がないのです。

むしろ、優しく素敵なお父さんがにじみ出ていて、とても感動しました。

いったい、なにが変わったのでしょう。

もちろん再収録した訳でもないでしょうし、受け止める私の感覚の違いだけですが、本当に素敵に聞こえました。

プロの声優や作られたアニメ声を嫌い、その後の宮崎作品はどんどん声優の素人を起用して行くのですが、その意味が今回やっと分かった気がします。

考えてみれば、私たちは日頃あまりクリアにしゃべっていません。

家族や友人、恋人同士など、親しくなればなるほど、それこそツーカーでコミュニケーションが取れます。

職場でも長くなれば、上司が明確に指示を出さなくとも部下が動きます。

親しい人同士の会話は、実際は他人が聞いても意味が分からない事が多いものです。

そういう意味では、糸井さんの演技はとてもリアルなのです。

実際に娘さんがいらっしゃるそうなので、その辺りも影響したのかもしれません。

出演者全員が、糸井さんレベルだったらリアルとはいえ、見ている方が理解出来ないので作品として成立しませんが、お父さんひとりならまだ大丈夫です。

引退作品となった「風立ちぬ」でも主人公の声を、アニメ監督の庵野秀明氏が演じています。

メイキングで宮崎監督が、「本当のインテリはあまりしゃべらないし、声の質が独特だ」という意味の事をおっしゃっていましたので、作品はまだ見ていませんが、これもちゃんとハマっているのでしょう。

トトロを見てから25年経って、やっと今回監督の意図が理解出来た気がしました。

そういえば、スウェーデンでは、映画に出演するひとを監督が役のイメージに近いひとを見つけて街でスカウトするそうです。

高倉健さんの「単騎千里を走る」でも、監督のチャン・イーモウが中国側の出演者をほとんど現地の民間人にやらせたそうです。

映画は見ていませんが、これもTVのメイキングで、出演者があり得ないくらい鼻水をたらし、泣きながら演じていたのが印象的です。

あれを見ていると、リアルな演技とは、なにか考えさせられます。

ジェームス・ディーンも台本と関係なく、その場のフィーリングで演技した人だそうです。

ひとを本当に感動させるのは、「演じているのに、演じていない」むしろ、こっちのタイプかもしれません。