モナサブダム
今回の大雪で孤立している集落や、道路で立ち往生して車中泊している人たちが、沢山おられるようです。
気象庁の予想では、3月も雪が降る可能性があるそうで、もう聞くだけでうんざりします。
孤立状態で思い出したのですが、フィジーにいた頃、「ビチレブ島(フィジー共和国本島で四国くらいの面積)の中心まで行こう」という話になり、友人たちと一緒にレンタカーを借りて、私を含め4人で島の中心を目指しました。
島の中心には1000m位の山と湖があり、そこには「モナサブダム」とよばれるダムがあり、フィジー本島の電力を一手に賄っています。
それを見に行きました。
というのは後付けで、単に冒険旅行がしたいだけの酔狂でした。
初め歩いて行こうとしていましたが、流石に危険過ぎる(野犬や強盗など)という事になって、みんなで車を借りたのです。
フィジーも舗装道路はありますが、島を一周する道があるだけで、中心部に行く道は舗装されていません。
現地の人に話すと、みんなに無茶だと言われました。
現地の人でも恐らく普通一生行かない場所です。
4WDを借りましたが、あまりお金も無いので、軽自動車のジムニーにしました。
そこに野郎ばかり4人乗り込み出発。
中心に通じる道は一本だけなので、そこをどんどん奥地に登って行きました。
舗装されていないので、かなり道が悪いです。
奥地に行くと途中集落がいくつかあり、人が馬に乗って移動していました。
フィジーも街では結構車は走っており、この光景は珍しかったです。
標高が高いせいか、気温も低めで、植物もヤシではなく杉などが多く、日本の山道にいるようでした。
それにしても南国フィジーで、わざわざこんな寒いところ(フィジーにしては)に集落を作って住んでいるなんて、とても不思議だし興味深かったです。
そこを通り過ぎ、まだまだどんどん進むと、まったくひとけも無くなり、ものすごいワインディングロードになりました。
道も穴ぼこだらけで揺られっぱなし、タイヤがバーストしないか心配したくらいです。
しかもガソリンが無くなって行き、帰りの分を計算するとヤバくなって来ました。
地図を見ても現在位置がわかりません。
一本道なのでひたすら信じて進むだけです。
目的地はまだ見えません。
ただ走行距離的にはとっくに到着しているはずなので、おかしいと思いつつ引き返そうかとも思案していると、山の日暮れは早く、どんどん気温も下がります。
そろそろ日没で、流石に知らない暗闇の悪路を進むのは危険なので、車を止めました。
日帰りの予定でしたが、仕方なく車中泊せざるおえない状況になりました。
長袖は一応もって来ていましたが、それでも寒い。
ガソリンがもったいないが、エンジンを掛けないと寒くて一晩過ごせません。
ガソリンは残り3分の1です。
帰りは下りの坂道なのでそれでも良い物の、流石にエンジンを掛けて一晩過ごすと街までたどり着けません。
私は車を降りてみんなを残し、一人で偵察に行きました。
するとほんの少し歩いただけで明かりが見え、コンクリートの2階建ての建物が現れました。
敷地は広く、他にも建物があり、電気も付いています。
これで助かったと、私は歓喜しました。
恐る恐る中に入ってみると、誰もいません。
仕方がないので敷地を、うろうろしているとプレハブからシャワーの音がしました。
近づくと、中からバスタオル一枚のフィジー人の男性が出て来ました。
初めはお互いぎょっとしましたが、私は必死で事情を説明し、今晩止めて欲しいと申し出ると、相手もかなり驚いていましたが、快く引き受けてくれました。
なんとそこは、目的地の湖のほとりにあるモナサブダムの管理施設そのものでした。
すぐその近くで夜を明かそうとしてたなんて、間抜けな話です。
驚いたことに施設には警備とメンテナンス要員が2人いるだけです。
私たちにキッチン、シャワー、トイレ付の部屋を提供してくれ、夕食は持ち込んだ食料で彼らを交え酒盛りをしました。
彼らはこんな孤立した場所に、2週間交代で常駐しているとのこと。
日本人がここに来たのは、10年以上前に植物の研究で来た大学関係者以来だといっていました。
そもそもここには、関係者以外誰も来ないそうです。
2人とも30代後半で、環境のせいでかなり人恋しいらしく、彼らの自宅も私たちと滞在している同じ街ということもあり、話が盛り上がりました。
その夜は冷え込んで、凍えて何度も目が覚め、まともに眠れませんでしたが、泊めてもらえただけで本当にありがたかったです。
次の日、朝食までご馳走してくれ、本当に良くしてくれました。
彼らと分かれ、施設を出た後、少し先にあるダムを見学。
横幅40~50mの小さなもので、日本と違い石垣の様な造りで、1982年完成とのこと。
その時は水も少なく、これで本島の電力を賄えるなんて意外です。
それにしても、全体的に不用心だと思いました(助けてもらっといてひどい話ですが)
もし我々がテロリストならダムも施設も簡単に制圧できます(フィジーはフィジー系とインド系の仲が悪く、クーデターのフィジー系軍事政権で政情不安定)
日本の原発は、MP5(サブマシンガン)を持った警備隊が24時間守っていますが、水力発電とはいえ、本島の電力を一手に賄っているのに、実にのんびりしています(日本でもダムに警備はいませんが)
帰りはギアをニュートラルにして惰性で坂道を下り、ガソリンを節約しつつ何とか無事(ぎりぎりでしたが)に帰れました。
学校の先生や、ホームステイ先の家族は、みんなびっくりしていました。