ラウトカ学生寮強盗事件 その20
事件から2週間が経ちナンディの生活にも落ち着いた頃、滞在しているホテルでの待遇が変わりました。
管理会社の予算の都合で朝夕の食事は無くなり、部屋も移動になりました。
私の入ったホテルは私以外はみんな日本のある企業の新入社員研修で来ている人達で、全部で30人位はいました。
なんでも将来海外で支社を作るための人材を育成するのが目的だそうですが、実際には人件費削減の為でもあるそうです。
フィジーは物価が安く学費も団体割引で安くなり、給料も生活費として数万円支給するのみなので会社としても人件費が助かるとのことでした。
2009年当時は内定取り消しなど深刻な就職難で(今もそうですが)それでも就職できただけでラッキーだと彼らは思っている様でした。
期間は私と同じ1年間で時期もほぼ同じで、責任者の数人以外はみんな新卒の人ばかりなので、自分の意志で来ているならいざ知らず本当に気の毒でした。
彼らは事件後、会社命令でナンディに転校させられ今後もこのホテルのアコモデーションで滞在することになり、彼らは残りの期間を狭い部屋に押し込められて暮らす事になって本当に気の毒でした。
私だけは個室を与えられましたので、管理会社が気を使ってくれたのだと思います。
その個室で滞在中に衝撃の体験をしました。
私の部屋は窓がホテル内のエントランス側にあり、エアコンが無い部屋なので、窓を開けてカーテンも空けていると外から中が丸見えです。
起きている間は暑いし、気にせずその状態で過ごしていると、ある日ドアをノックする音が聞こえて来ました。
私はてっきり友人が訪ねてきたと思いドアを開けると、そこには見知らぬ若いインド系フィジアン男性が立っていました。
そして彼は私に手を差し伸べて「Fan ! Fan !! I love you 」と言って来ました。
私は何が起きているのか一瞬理解出来ませんでした。
そして自分でも「目が点」になるのが分かりました。
要するに彼はいわゆる「ゲイ」で私を誘っていたのです。
彼は笑顔で瞬きもせず、臭い息を吐きながらひたすら「Fan ! Fan !! I love you 」を繰り返していました。
私は怖くなり「Sorry Im not Gay !」と言いながら何とかドアを閉めました。
ドアを閉めてもしばらく彼の声が聞こえて来ましたが、やがて静かになりました。
そのあと部屋から出るのが怖くなりました。
私はこれまでの人生で「そちらの方」に誘われたことは一度もなく、高校生の時に一度満員電車でおしりをなでられた経験はありましたが、まったく「その気(け)」はありません。
フィジーはゲイの方が以外と多いとは聞いていましたが、まさか自分が誘われるなんて思ってもみませんでした。
私の部屋にはシャワーはなく、汗を流すには部屋のすぐ外にあるシャワーボックスに行くため、いったん外に出ないといけません。
確か夜の9時ごろだったと思いますが、さすがに寝る前には汗を流したいので時間を空けて恐る恐るシャワーを浴びました。
ホラー映画のワンシーンでもありますが、シャワーを浴びている間は無防備(もちろん裸)なので、彼がいつ来るかもしれない恐怖でいっぱいでした。
それは強盗とはまったく種類の違う恐怖の時間でした。
結局その後、彼とは顔を合わす事はなく、Anotherの出現もありませんでしたが、そのあと毎日昼間でも窓とカーテンを締めて過ごしたのは言うまでもありません。