ラウトカ学生寮強盗事件 その28
驚いたことに被告人質問は弁護人を通さず直接被告本人達からでした。
よくTVや映画では弁護人が証人に質問しているシーンを見かけますが、これでは何のために弁護人がいるのか意味が分かりません。
これはフィジーの法廷でのルールなのか、弁護人が質問内容や発言内容を、あらかじめ色々指示しているのか、それとも直接話したいと本人達の強い要望でもあったのかは分かりませんが、いずれにせよ被害者が被告人と直接話すのは非常に不愉快ですし、感情的になる恐れもあるので、避けるべきだと思います。
強盗傷害事件なので被害者のPTSD(心的外傷後ストレス障害)への配慮なども必要かと思うのですが、感覚の違いかそれとも遅れているのか、この辺りはやはりフィジーは発展途上国なのかと、とてもがっかりしました。
お蔭で先程までの映画のワンシーンの中にいる様ないい気分が台無しになりました。
それに彼らの立場から考えても失言などで状況が不利になる恐れもありますので、やはり直接は良くはないと思います。
不満と当惑でいっぱいでしたが、厳粛な裁判の途中でクレームをつける訳にも行きませんので、被告人質問はかなりストレスを感じながらの答弁になりました。
はじめに彼らが聞いてきたのは、「何故強盗がフィジアンだと思ったか」でした。
「は?」私は目が点になりました。
「論点そこかよ!」と思いつつ私は「黒い肌だったから」と答えると、「インド系も同じく黒いのでは」と質問が返って来ました。
私は被告人のこの質問で、状況を理解しました。
彼らは「容疑を否認」している様です。
以前にも説明しましたが、彼らは寮を襲撃したあと、寮生たち全員がバスでナンディに避難したのを見計らって、再び寮に盗みに入ったところを逮捕されているのです。
しかも彼らはその時、私や他の生徒から盗んだ所持品を持っていたのです。
事件後すぐに事情聴取で盗まれた物の確認は済んでいたので、再度侵入時に盗んだとは言い逃れ出来ません。
状況証拠がそろっているにも関わらずこの態度です。
私はショックと怒りで頭がクラクラしましたが、気を取り直して「彼らがフィジー語で会話していたから」と答えると、「何故フィジー語だと分かる」との質問。
「少し生活していれば、フィジー語とヒンディー語の違い位は聞き分けられるし、両者は明らかに違う」(実際かなり違います)と答えました。
こんな問答がいくつか繰り広げられて行くうちに、私は強い焦燥感と疲労感を覚えました。
特に私が取り押さえた方の被告が否認しているのは我慢できないので、いっそのこと「お前だろ、あの時の男は!」と言ってやりたかったのですが、基本的に法廷は質問されたこと以外は発言しにくい雰囲気ですし、流石に「その男の眼に覚えがある」では根拠として弱いので、そこは発言を控えました。
被告人の質問が終わり、最後に裁判官から直接私に質問がありました。
「被害に遭った時どんな気持ちがしましたか」と聞かれたので「とても怖かったです」と答えました。
その質問を最後に、この日の法廷は閉廷となりました。