ラウトカ学生寮強盗事件 その29
私への質問の後、裁判官が木槌を叩いて閉廷を宣言し法廷を退廷されました。
牧師や司祭が着るような立派な黒い衣装(南国では少々暑苦しい)を着た大柄な裁判官は誠に堂々として威厳に満ち、彼の存在感だけで法廷の雰囲気が変わるようでした。
私たちは全員起立で彼の退廷を見送りました。
それが解散の合図のようにその他の人たちもめいめいばらばらに退廷しました。
とりあえず私は傍聴席の仲間の所に歩いて行きました。
仲間と話しているすぐ隣で被告人達が警官に付き添われ退廷して行きました。
ほんのすぐ隣に「あの男」がいるので、一発ぐらい殴ってやりたい衝動に駆られましたが、その間も警官と被告らは談笑していました。
それを見て馬鹿馬鹿しくなり力が抜けました。
なんとも緊張感のない状況ですが、これだとその気になれば脱走も十分あり得るなとあきれる思いでした。
本当にこの国に住む人々はのんびりしています。
気が付くと法廷に残っているのは証言にきた私達日本人生徒だけでした。
そこへあの女性検事さんが入って来て、今日のお礼を言われました。
交通費が出るので必要な人は申し出てほしいとの事でしたが、私はこのラウトカに住んでいてバスに乗っても往復50円程度だし、来たときと同じく歩いて帰るのでと断りました。
他の人たちも隣町ナンディまでバスで往復200円もあればいいし、みんなラウトカが懐かしくてたまに遊びに来ることもあるし、少額なので断っていました。
判決結果はいつ出るのかと尋ねましたが、「まだ何か月か先になるだろう」との答えでしたので、近々帰国する私達にはもう関係ないことのように思われました。
もう誰もいないので法廷内を記念に写真を撮っても良いかと尋ねると、快く承諾してくださいましたので、みんな喜んであちこち撮影しました。
それを見て検事さんは苦笑しておられました。
残念ながら私はそんなことは想定していなかったので、カメラは持って来ていませんでした。
椅子や証言台、特に裁判長席など、重厚な木製で良く見ると結構良い物が使われています。
私たちはふざけて裁判長席に座り一人ずつ記念撮影をしました。
机には木槌もちゃんとありました。
そのあと裁判所を出て、友人と街で食事をしました。
そして彼らと分かれたあとの帰り道、ひとりで思い起こしました。
裁判は時間や手間がかかり、多くの人の手を煩わせ、発言も一言一句慎重に責任を持たなければならず、質問以外の勝手な発言も出来ず大変だと。
冤罪があってはいけないし、微妙なことが量刑にも関係するので、毎日これに係わる人たちは神経が磨り減るのではと思います。
少なくとも当事者の私は本当に疲れました。