ラウトカ学生寮強盗事件 その26
宣誓が終わると裁判官から名前、住所、職業などを聞かれました。
この辺りは記憶が曖昧で、宣誓より先に聞かれたかもしれません。
住所はホームステイ先の住所を、身分は語学学校の学生と答えました。
そしていよいよ私への質問が始まりました。
部屋の真ん中の空間にいる女性検事さんが、当時の状況を聞いて来ました。
質問内容は、かなり詳細でした。
どこで何をしていたか、どんな状況だったか、どう行動したか、どう思ったかなど、ひとつずつゆっくりと質問されました。
ゆっくりと分かりやすい英語を使って下さったのもありますが、私は当時フィジーに来て1年近く経過していましたので、検事さんの質問内容は通訳を介さずともほぼ理解出来ました。
日本への帰国が近づく中で、ここは自分がこれまで学んだ英語力を試す総決算の場所だと思い、少し色気を出して頑張って出来るだけ直接答えてみようと思いました。
しかし初めのうちは質問に対し直接答えていましたが、なにぶん質問は理解出来ても、私の英語力ではまだ答えるのにはどうしても時間がかかってしまう傾向があり、もどかしさを感じながらの答弁になりました。
それでも検事さんや他の人たちは根気よく聞いて下さいました。
しばらくして隣にいた通訳の男性が退屈そうにされる空気を感じましたので少し気の毒になり、それとせっかちな性格が出てきて、途中からは簡単な答え以外は通訳を介して答えることにしました。
この通訳のフィジアン男性は日本語がペラペラで、先日の打ち合わせでは隣町の空港で旅行代理店に勤められていて、当日は仕事を抜け出して来てくれているとのことでした。
そんな方が付いて下さいましたので、人間楽を仕出すと安易な方に流れやすいのか、気が付けば最後の方はほとんど通訳に頼っていました(笑)
検事さんの長い質問が終わり、今度は被告からの質問に移りました。
被告人には弁護人が付いており、その方は真ん中の空間を挟んで私と相対している被告人の証言台の傍らに立っています。
私は驚きました。
この方も検事さんと同じく、まだ若い女性でインド系(検事さんはフィジアンとインド系のハーフ)でした。
日本で裁判を傍聴したことはありませんが、これを見る限りフィジーの方が司法は女性進出が進んでいるのではと思いました。
そのころには緊張も解け、周りを見渡す余裕も出ていました。
私は感動しました。
木製の重厚な壁や椅子、立派な壮年の男性裁判官がいて、部屋の真ん中に2人のスーツで決めた若い女性検事と弁護人、部屋の後ろには警官が立ち、まるで映画やドラマのワンシーンの様です。
南国フィジーは人も街もゆったりで、おおよそ緊張感がありません。
私も気楽な学生で、毎日どっぷりとフィジー時間の中で過ごして来たので、この法廷内は別世界でした。
まるで外国に居るようなと言うと変ですが、そのくらいフィジーの生活にはまっていましたので、法廷内では欧米先進国にいるような錯覚を覚えました。
そんな中で、刑事事件の法廷で英語で答弁している自分も映画の登場人物の様な気分になり、誠に不謹慎ですが、ちょっと自分に酔いしれる(馬鹿ですね)思いでした。