マサオのブログ

よもやま話ですが、何かのお役に立てれば幸いです。

ラウトカ学生寮強盗事件 その5

ついにノブが壊れ、そのあとものすごい力でドアを押してきました。

私は必死にドアを抑えましたが、一人の力では支えきれずについに押し返されてしまいました。

最初に相手と目が合った時の恐怖は忘れられません。

暗闇で白い眼玉だけが、ぎょろぎょろ光っていました。

「ついに来た、どうしよう」「これからどうする」そんなことを考えている間にも彼らはどんどん中へ入って来ます。

結局部屋に入って来たのは2人だけで、もっと大勢だと思ったので意外でした。

一人は185~188cm位の長身で手にナタを持っており、もう一人は175cm位で素手でした。

マスクはしていますが、二人ともフィジー系でまだ若い20代位だとわかりました。

二人とも100kgを超えるラグビー体系の巨漢ではなかったので、すこし安心しました。

ドアが開いてからは何故かそれまでの恐怖が嘘のように去り、以外と冷静に相手と状況を観察する自分がいました。

その背景には事件の2週間程前、学校にフィジーの日本領事館勤務の自衛隊の駐在武官が来て、防犯対策として生徒たちにフィジーの犯罪やその傾向、防犯などを講習してくれていたおかげでした。

フィジーの犯罪は衝動的で計画性に乏しく、あくまで金銭やレイプが目的で、刑法が厳しく、めったに殺人までは犯さないことや、銃は持っていないことなどでした。

ただ彼らはレスラー並みの巨漢ががごろごろいるので、勢い余って相手をなぐり殺してしまうケースがあるらしく、そんな巨漢に襲われたら絶対かなわないので、街で巨漢を見かけると本能的な恐怖を感じていました。

相手がそこまでの体格でないことに加え、持っているナタがほとんど切れないのを知っていたからでもありました。

強盗のナタは「ケーンナイフ」と呼ばれるフィジー独特の物で、サトウキビの伐採やココナッツを割るときに使います。

刃渡り40~50cm位で、切れ味はほとんど無く、叩き切る、叩き割るといったどちらかと言うと鈍器に近い代物です。

なのでそれ程恐怖を感じませんでしたが、まともに食らえばただでは済まないので警戒が必要です。

幸い部屋の広さが4畳半ほどで細長く、自転車やベッド、家財道具で足の踏み場もない位でしたのでケーンナイフを振り回す訳にもいかず、二人ともパンチで攻撃してきました。

私は入口付近でガードするのが精一杯で、何発もパンチをもらいましたが、どれもクリーンヒットしなかったので、受けながらこの状況をどうすべきか考えていました。

ついに長身の方が私の横をすり抜け奥へ侵入し、金目の物を物色し始めました。

私はそれを横目で見ながら目の前の男に殴られ続けていました。

相手が一人になったので、とにかく目の前の男を何とかしようと思い、相手の腕を取

り力任せに引き寄せ、そのまま首に腕を回し自分の体重をかけ抑え込みました。

相手は必死で抵抗をしますが、私のロックが完全に決まり身動き出来ません。

私はポケットから先程入れておいたモンキーレンチを取り出して、相手の頭におみまいしてやろうと思い、それを持ち上げた瞬間、驚くべき光景を目にしました。

なんと、取り押さえた相手が、目を大きく見開き小刻みに震えていたのです。

私はそれをみて躊躇しました。

何故か「かわいそう」だと思ってしまったのです。

一度そう思ってしまうと、もう出来ません。

それに強盗だといえ人間の頭にレンチを振り下ろす勇気は、私にはありませんでした。

私はレンチを再びポケットにしまいました。

その隙に取り押さえている男が、フィジー語で何か叫んだのです。

恐らくもう一人に助けを求めたのでしょう、部屋をあさっていた長身の男が振り向き、こちらの状況を見て、ケーンナイフを振りかざしながら向かって来ました。