ラウトカ学生寮強盗事件 その6
私が取り押さえていた男が仲間を呼びました。
部屋を物色していたもう一人の長身の男が振り返り、私に向かってケーンナイフ(ナタ)を振りかざして迫って来ます。
狭い部屋の中、しかも私はベッドの上で男を取り押さえるため、しゃがんだ姿勢でいましたので、とてものこと攻撃を交わしたりは出来ません。
長身の男はそんな私に容赦なくナタを振り下ろしてきました。
やむなく私は捕まえていた男を離して、左腕でナタを受けました。
ナタは私の前腕の真ん中あたりの骨に当たり弾かれましたが、電気が流れる様な鋭い痛みが腕を走りました。
その痛みで反射的に腕を下したところに、ものすごいスピードで2発目が来ました。
今度は防御が間に合わず、私の左側頭部に直撃、ナタはまた骨で弾き返されましたが、硬い部分のせいか今度は痛みが無く平気でした。
すぐ3発目が来て、また腕を上げましたが、ナタの軌道が外側を通ったため腕をかすめて、2発目とほぼ同じところに当たりました。
その勢いで、私はそのままベッドへ右側に横倒しになりました。
相手も流石に驚いたのか、倒れている私の様子をうかがい、それ以上は攻撃してきませんでした。
私は身体をゆっくりと起こしながら、込み上げてくる怒りに打ち震えていました。
「やりやがったな、ほんとにやりやがったな」
「そっちがその気ならこっちもやってやる」
「力ずくでナタを奪ってやり返してやる」
「もうどうなってもいい、刺し違えてでもやってやる」
そんなことが頭をよぎりました。
それまではあまりの出来事に、どう対処すべきかわからないまま、迷いながらの行動でしたが、やっと心のスイッチが入り全力で戦う覚悟が出来ました。
そしてゆっくりと立ち上がり、相手を見下ろし仁王立ちになりました。
私の身長は172cmしかありませんが、ベッドの上なので、長身の男よりもかなり高くなっています。
2人はこちらを見上げながら、「ナタをまともに食らって、こいつ平気なのか?」と驚いている様子でした。
「さあ、戦闘開始だ!一人は1度は取り押さえたので勝てる、敵はナタ男だけだ、全力で行くぞ!」と思った瞬間、頭から首筋に冷たいものが伝って来ました。
手でさわってみると、暗闇で良くは見えませんが、すぐにそれが自分の血液だとわかりました。
それと同時に痛みと恐怖が遅れて襲って来ました。
そのとき初めて「死」を予感しました。
それまでは、何だか実感が無いまま突然のことに戸惑うばかりで、どこか現実味がないまま状況に流されていましたが、頭からの出血は本当にやばいと思いました。
それだけではありません。
もし目の前の強盗に勝ったとしても、そのあと何人の強盗たちと戦わなければならないのか、「やられれば本当に命を失うことになる」、「こんなことに命まで賭ける必要はない」、「こんなところで人生終わってたまるか」、こんな考えがまるで走馬灯の様に頭をよぎりました。
私は頭を押さえながら、再びベッドにうずくまりました。
それを見て驚いたのか、反撃してこないので安心したのかわかりませんが、男たちは部屋を出て行きました。
私は傷口を抑えながらそれを見て、ほっとしました。
助かったと・・・